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神戸地方裁判所 昭和62年(ワ)676号 判決 1990年1月26日

原告(反訴被告)

渡邊昌子

被告(反訴原告)

平井勝治

主文

一  原告(反訴被告)の請求を棄却する。

二  反訴被告(原告)は、反訴原告(被告)に対して、金五五万〇六七九円及び内金四九万〇六七九円に対する昭和六二年二月六日から、内金六万円に対する平成二年一月二七日から、いずれも支払ずみまで年五分の割合による各金員を支払え。

三  反訴原告(被告)のその余の反訴請求を棄却する。

四  訴訟費用は、本訴反訴を通じて、これを五分し、その三を原告(反訴被告)の、その二を被告(反訴原告)の、各負担とする。

五  この判決は、反訴原告(被告)勝訴部分に限り、仮に執行することができる。

事実

以下「原告(反訴被告)」を単に「原告」と、「被告(反訴原告)」を単に「被告」と、略称する。

第一当事者双方の求めた裁判

一  本訴

1  原告

(一) 原告と被告間で、原告の被告に対する別紙事故目録記載の交通事故に基づく損害賠償債務が存在しないことを確認する。

(二) 訴訟費用は、被告の負担とする。

2  被告

(一) 原告の請求を棄却する。

(二) 訴訟費用は、原告の負担とする。

二  反訴

1  被告

(一) 原告は、被告に対して、金五八六万〇四一八円及び内金五四六万〇四一八円に対する昭和六二年二月六日から、内金四〇万円に対する平成二年一月二七日から、いずれも支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

(二) 訴訟費用は、原告の負担とする。

(三) 仮執行の宣言。

第二当事者双方の主張

一  本訴

1  原告の請求原因

(一) 別紙事故目録記載の交通事故(以下、本件事故という。)が発生した。

(二) 被告は、右事故により頸椎捻挫の傷害を被つたと主張している。

(三) しかしながら、右事故は、その態様が追突事故であり、その追突の衝撃も大きくなかつたから、被告にその主張するような傷害は生じておらず、したがつて、被告に右事故による損害は全く生じていない。

仮に、被告に右損害が生じたとしても、同人は、右事故後、自賠責保険金金一二〇万円を受領しているから、同人の右損害は、右受領金によつて全て填補されている。

いづれにせよ、被告には、現在、右事故に基づく損害が全く存在しない。

(四) ところが、被告は、原告の右主張を争い、右事故に基づく損害の存在を主張している。

(五) よつて、原告は、本訴により、原告と被告間で、原告の被告に対する本件事故に基づく損害賠償債務が存在しないことの確認を求める。

2  請求原因に対する被告の答弁

請求原因(一)、(二)の各事実は認める。同(三)中、本件事故の態様が追突であること、被告が右事故後自賠責保険金金一二〇万円を受領したことは認めるが、同(三)のその余の事実及び主張は全て争う。同(四)の事実は認める。被告に現在右事故に基づく損害が存在することは、後叙反訴において主張するとおりである。同(五)の主張は争う。

二  反訴

1  被告の反訴請求原因

(一) 本件事故が発生した。

(二) 原告は、右事故当時、原告車を自己のため運行の用に供していたものである。

よつて、同人には、自賠法三条に基づき、被告の本件損害を賠償する責任がある。

(三) 被告の、本件受傷の具体的内容及びその治療経過は、次のとおりである。

(1) 頸部・右手部・腰部・右膝部打撲捻挫傷。

(2) 赤松外科・整形外科・眼科医院

昭和六二年二月九日から同年五月二二日まで入院(一〇三日)

昭和六二年二月六日から同六三年七月二二日まで通院(実治療日数一八二日。ただし、右入院期間中を除く。)

神戸市立中央市民病院

昭和六二年一〇月五日から二八日おきに通院

(3) 昭和六三年七月二二日 症状固定

頸部・腰部・右膝の疼痛という後遺障害が残存。障害等級一四級該当。

(四) 被告の本件損害は、次のとおりである。

(1) 入院雑費 金一三万三九〇〇円

一日当り金一三〇〇円の割合で一〇三日分。

(2) 通院交通費 金六万九一六〇円

バス代一日当り金三八〇円の割合で一八三日分。

(3) 診断書等費 金二万五〇〇〇円

(4) 休業損害 金二三三万九三二九円

(イ) 被告は、本件事故当時一か月金二九万七二四九円の収入を得ていた。

(ロ) 同人は、本件受傷治療のため昭和六二年二月六日から同六三年六月七日まで一六か月間休業し、その間右収入を全く得ることができなかつた。

(ハ) よつて、同人の本件休業損害は、金四七五万五九八四円となるところ、同人は、労災保険から右損害に関し金二四一万六六五五円の支給を受けているので、右金四七五万五九八四円から右支給金金二四一万六六五五円を差し引くと、その残額は、金二三三万九三二九円となる。

(5) 後遺障害による逸失利益 金一一三万一七二九円

(イ) 被告に障害等級一四級該当の後遺障害が残存すること、同人の本件事故当時の収入が一か月金二九万七二四九円であつたことは、前叙のとおりである。

(ロ) 同人の右後遺障害による労働能力の喪失率は、五パーセント相当であり、右喪失期間は、二年が相当である。

(ハ) 右各事実を基礎として、同人の右後遺障害による逸失利益の現価額を算定すると、金三三万一七二九円となる。(新ホフマン係数は、一・八六)

29万7249円×12×0.05×1.86=33万1729円

(6) 慰謝料 金二八〇万円

(イ) 入通院分 金二〇〇万円

(ロ) 後遺障害分 金八〇万円

(7) 弁護士費用 金四〇万円

(五) 損害の填補

被告は、本件事故後、自賠責保険金金二三万八七〇〇円を受領したので、右保険金を同人の本件損害から控除する。

(六) よつて、被告は、反訴として、原告に対して、本件損害金五八六万〇四一八円及び弁護士費用金四〇万円を除いた内金五四六万〇四一八円に対する本件事故日の昭和六二年二月六日から、弁護士費用内金四〇万円に対しては、本判決言渡日の翌日である平成二年一月二七日から、いずれも支払ずみまで、民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

2  反訴請求原因に対する原告の答弁及び抗弁

(一) 答弁

反訴請求原因(一)(二)の各事実は認める。同(三)(1)の事実は否認。仮に、被告が本件事故により何らかの受傷をしたとしても、右事故の態様が追突であり、しかも右追突時の衝撃もそれ程大きくなかつたから、被告は右事故によりその主張するような内容の受傷をしていない。同(三)(2)中被告が赤松外科・整形外科・眼科病院(以下、赤松病院という。)に入院したことは認めるが、同(2)及び同(三)のその余の事実と主張は全て争う。仮に、被告が右事故により何らかの受傷をしたとしても、その受傷内容は、右のとおり軽微であつたから、同人には入院してまで治療をうける必要はなく、短期間の通院治療で治癒したものである。因みに、被告は、右入院中しばしば外出し、時には同人所有の車両を運転して競艇場へ出掛けていた。更に、被告は、本件後遺障害の存在を主張している。しかしながら、同人には、右後遺障害は存在しない。即ち、同人は昭和六〇年一〇月一七日交通事故により頸部・右肩部・腰部打撲捻挫の傷害を受け、右傷害は昭和六一年五月二日症状固定し障害等級一四級一〇号該当の認定を受けたところ、右後遺障害は、本件事故直前まで残存していた。同人が現在主張している後遺障害なるものは、仮にそのような症状が存在するとしても、それは、まさに前回事故による後遺障害が残存していることによる症状に過ぎないものであつて、本件事故によるものではない。同(四)中被告が赤松病院に入院したことは認めるが、同(四)のその余の事実及び主張は全て争う。なお、被告は、本件後遺障害による運転手としての労働能力の制限を主張しているが、同人がその入院中自己車両を運転して競艇場に通つていたことは前叙のとおりであつて、しかも、右競艇場ではコンクリートの床上に座る等不安定な姿勢をしていた位であるから、自動車の運転程度の労務には何ら支障がないことは明白である。同(五)中被告が本件事故後自賠責保険金金二三万八七〇〇円を受領したことは認めるが、同(五)のその余の事実及び主張は全て争う。被告が自賠責保険から右受領金以上の金員の支払いを受けたことは、後叙抗弁で主張するとおりである。同(六)の主張は争う。

(二) 抗弁

被告は、本件事故後、自賠責保険金金一二〇万円の支払いを受けた。

仮に、被告に何らかの本件損害が発生したとしても、右損害は、同人における右自賠責保険金の受領により消滅した。

3  抗弁に対する被告の答弁

被告原告主張の金員を受領したことは認めるが、その余の主張は争う。

第三証拠関係

本件記録中の書証、証人等各目録記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

第一本訴

一  請求原因(一)、(二)の各事実、同(三)中本件事故の態様が追突であること、被告が右事故後自賠責保険金金一二〇万円を受領したこと、同(四)の事実は、当事者間に争いがない。

二  ところで、原告は、本訴において、同人の被告に対する本件事故に基づく損害賠償債務が全く存在しない旨主張するが、被告の右事故に基づく損害金五五万〇六六七円が存在し、したがつて、被告の原告に対する右損害を内容とする損害賠償債権が存在することは、後叙反訴に対する判断において認定説示するとおりである。

三  してみれば、原告の右主張は、これを肯認できず、したがつて又、同人の本訴請求も全て理由なしというほかはない。

第二反訴

一1  反訴請求原因(一)、(二)の各事実(本件事故の発生、原告の責任原因。)は、当事者間に争いがない。

2  右事実に基づけば、原告には、自賠法三条により、被告の本件損害を賠償する責任があるというべきである。

二1  被告の本件受傷の有無

(一) 成立に争いのない甲第二号証、第一二、第一三号証〔なお、被告本人(第一回)尋問の結果により真正に成立したものと認められる乙第一号証は、甲第一二号証の回答書と同一である。以下同じ。〕、証人赤松秀夫の証言、被告本人(第一、第二回)尋問の結果及び弁論の全趣旨を総合すると、被告は、本件事故の衝撃により、のけぞつて同人の頭部をヘツドレストに、同右手甲部をハンドルに、同右膝部を被告車運転席付近に、それぞれ衝突させたこと、同人は、右事故当日午前三時頃タクシー運転の勤務を終え帰宅し同日午前一一時頃まで就寝したが、その間一度嘔吐したこと、そこで、同人は、起床後赤松病院を訪ね、訴外赤松秀夫医師(以下、赤松医師という。)の診察を受けたこと、赤松医師は、その際、被告を問診し、同人の身体を診察したうえ、ジヤクソン並びにスパーリングテストやイートン並びに肩押下げテスト等の諸検査を実施して、同人の症状を、頸部右手部腰部右膝部打撲捻挫傷、外傷性頸部症候群と診断したことが認められ、右認定を覆えすに足りる証拠はない。

(二) 右認定各事実に基づけば、被告は本件事故により赤松医師の診断にかかる右受傷をしたというべきである。

右認定説示に反する原告の主張は、理由がない。

2  被告の本件入院の必要性の有無

(一) 前掲甲第一二号証、証人赤松秀夫の証言、被告本人(第一回)尋問の結果及び弁論の全趣旨を総合すると、被告は、前叙初診時以後数回にわたり嘔吐したこと、同人は、昭和六二年二月九日、赤松病院を訪ね、赤松医師に右症状を訴え、同医師の診察を受けたこと、赤松医師は、右診察の結果、被告の症状は前叙初診時に比して増悪していると判断し、被告の右症状からすると、同人を常に医師の監視下に置き随時適切な処置を施す必要がある、又、同人に安静を保持し規律ある毎日の療養を徹底させ効果ある治療を行わせる必要があると認め、同人を同日右病院へ入院させたことが認められ、右認定を覆えすに足りる証拠はない。

(二) 右認定各事実を総合すると、被告には赤松病院へ入院して治療する必要があつたというべきである。

右認定説示に反する原告の主張は、理由がない。

3  被告の本件治療期間の相当性

(一) 被告において、同人は、同人の本件受傷治療の必要上昭和六二年二月九日から同年五月二二日まで赤松病院に入院し、昭和六二年二月六日から同六三年七月二二日まで通院(実治療日数一八二日。ただし、右入院期間を除く。)した旨主張し、右主張事実にそう証拠として、前掲甲第一二、第一三号証、証人赤松秀夫の証言があり、右各証拠によれば、右主張事実は、これを肯認し得るかの如くである。

(二)(1) しかしながら、右甲第一二号証中の一部(症状・経過及び所見等記録、体温検査記録、看護記録。)、証人水野長夫の証言により真正に成立したものと認められる甲第三、第四号証、右証人の証言及び弁論の全趣旨を総合すると、被告は、赤松病院へ入院中の昭和六二年四月一二日頃外出して右病院を不在にし、同月一九日(日曜日)正午頃には同病院北側道路に駐車してあつた自己所有車両を運転して外出し午後八時三〇分頃に至るも帰院しなかつたこと、同人は、同月二六日(日曜日)正午頃右同場所に駐車してあつた右車両を運転して外出し、同日午後三時四五分頃に至るも帰院しなかつたこと、同人は、同年五月三日(日曜日)午前一〇時三五分頃右同場所に駐車してあつた右車両を運転して尼崎市内所在尼崎競艇場に赴き同競艇場に入場して知人等に会つて談笑したり、右競艇場内を徘徊したりした後、数回にわたり艇券を購入してレースに熱中していたこと、被告のその間における歩行等の動作には異常は見られず、普通の健康人の動作と同じであつたこと、同人は、右レースの観戦中右競艇場観客用場所床(コンクリート製)上に新聞を敷いて座つていたが、同人には当時腰の痛そうな様子がなかつたこと、同人は、同日午後四時三〇分頃帰院したこと、同人の右同日の行動から、同人は日曜日毎に右同場所に駐車してあつた右車両を運転し右競艇場へ出掛け競艇で遊技していたものと推認されること、同人に対する看護記録によれば、同人には同年五月一日以後特変なしの状態が続いていること、又、同人は、同日以後右病院で出される食事も全量を食べていること、赤松医師の被告に対する同日以後の治療も、専ら同人の愁訴に基づいて行われていることが認められる。〔右認定に反する被告本人(第一、第二回)の各供述部分は、にわかに信用することができない。〕

(2) しかして、右認定各事実に、当裁判所に顕著な、医療機関、特に医師は患者から身体的苦痛を訴えられれば治療を実施せざるを得ないとの事実を併せ考えると、被告の右入院期間中昭和六二年五月一日以後の入院治療と本件事故との因果関係については、事実的因果関係の存在はともかく、相当因果関係については、未だその存在を肯認するに至らない。

むしろ、右認定各事実を総合すると、被告の本件受傷は遅くとも昭和六二年五月一日症状固定したと認めるのが相当である。

(3) 右認定説示に基づくと、被告の右同日以後の本件治療は、症状固定後における治療ということになるが、右治療と当該事故との間に相当因果関係の存在が認められるためには一定の事由の主張・立証を必要と解するのが相当であるところ、本件においては、右事由の主張・立証がない。

もつとも、前掲甲第一三号証、成立に争いのない乙第四号証、第九号証、証人赤松秀夫の証言によれば、赤松医師が、昭和六二年九月三〇日、被告に対する治療を赤松病院と神戸市立中央市民病院とで併進させるため、右市民病院へ被告の診察治療を依頼したこと、右医師が、同年一〇月五日、右市民病院担当医師から、被告の病名は頸部痛、右膝痛であり、右病院においてリハビリ等を中心として指導する旨の回答を得たこと、被告が、昭和六二年一〇月五日から同六三年五月二三日まで右病院へ通院し、クリノリル、リンラキサー等の投与を受けたことが認められるが、被告が右市民病院で受けた治療内容については、右認定以外にその具体的内容を認めるに足りる証拠はないし、証人赤松秀夫の証言によれば、被告が右市民病院で投与されたクリノリルは消炎鎮痛剤、リンラキサーは筋弛緩剤であることが認められるに過ぎないから、被告が右市民病院で受けた治療によつても、同人の本件治療に関する前叙認定説示を左右するまでに至らない。

4  被告の本件後遺障害の存否

(一) 前掲甲第一二、第一三号証、証人赤松秀夫の証言により真正に成立したものと認められる乙第八号証、右証人の証言、被告本人(第二回)尋問の結果を総合すれば、被告には、本件症状固定後現在に至るまでなお頸部、腰部、右膝部に自覚症状として疼痛、他覚的症状として他動痛、圧痛等が残存することが認められ、右認定を覆えすに足りる証拠はない。

(二) 右認定事実に基づけば、被告には、右認定内容の後遺障害が残存するというべきである。

しかして、同人の右後遺障害は、右内容からして、障害等級一四級一〇号に該当すると認めるのが相当である。

右認定説示に反する原告の主張は、理由がない。

三  被告の本件損害

1  入院雑費 金一〇万五三〇〇円

(一) 被告の本件事故と相当因果関係に立つ入院期間が昭和六二年二月九日から同年四月三〇日までの八一日間と認めるのが相当であることは、前叙認定のとおりである。

(二) 弁論の全趣旨によれば、被告は、右入院期間雑費を支出したことが認められるところ、本件事故と相当因果関係に立つ損害(以下、本件損害という。)としての入院雑費は、一日当り金一三〇〇円の割合で八一日分の合計金一〇万五三〇〇円と認める。

2  通院交通費 金三八〇円

(一) 被告が昭和六二年二月六日赤松病院へ通院したことは、前叙認定のとおりである。

なお、被告は、右病院退院後の右病院への通院治療を主張するが、右通院治療が本件事故と相当因果関係に立つとは認め得ないことは、前叙認定説示のとおりであるから、右通院に要したとする交通費も本件損害と認め得ない。

(二) 被告本人(第二回)尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、被告は、赤松病院への通院に阪神バスを利用したこと右バス代金が往復金三八〇円であつたことが認められ、右認定を覆えすに足りる証拠はない。

右認定事実に基づけば、本件損害としての通院交通費は金三八〇円となる。

3  診断書等費 金八〇〇〇円

成立に争いのない乙第六号証によれば、被告が診断書費用として合計金八〇〇〇円を支出したことが認められるから、右診断書費金八〇〇〇円も本件損害と認める。

4  休業損害 金八二万二三八九円

(一) 被告の本件相当治療期間については前叙認定説示のとおりであるところ、被告本人(第二回)尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、被告は、本件事故日の翌日である昭和六二年二月七日から同年四月三〇日までの八三日間全く就労できなかつたことが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

(二) 被告本人(第一回)尋問の結果により真正に成立したものと認められる乙第二、第三号証、被告本人の右供述及び弁論の全趣旨を総合すると、被告は、本件事故当時、訴外栄タクシー株式会社と同軽運送協同組合あさのサービスの掛持ちアルバイトに従事し、一か月二一日就労して合計金二九万七二四九円の収入を得ていたことが認められ、右認定を覆えすに足りる証拠はない。

(三) 右認定各事実を基礎として、被告の本件休業損害を算定すると、金八二万二三八九円となる。(円未満四捨五入。)

(29万7249円÷30)×83日≒82万2389円

5  後遺障害による逸失利益 金三三万一七二九円

(一) 被告に障害等級一四級一〇号該当の後遺障害が残存すること、同人の本件事故当時の収入が一か月金二九万七二四九円であつたことは、前叙認定のとおりである。

(二) 被告本人(第二回)尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、被告は、現在、本件後遺障害のため本件事故以前と同じ状態で就労することができないこと、したがつて、同人の現在の収入は右事故前に比して減少していることが認められ、右認定事実に基づけば、同人は、現在、右後遺障害のためその労働能力を喪失し、経済的損失、即ち実損害を受けているというべきである。

しかして、同人の右労働能力の喪失率は、右認定事実に所謂労働能力喪失率表を参酌して、五パーセント、その喪失継続期間を二年と、それぞれ認めるのが相当である。

(三) 右認定各事実を基礎として、被告の本件後遺障害による逸失利益の現価額をホフマン式計算方法によつて算定すると、金三三万一七二九円となる。(新ホフマン係数は、一・八六。)

29万7249円×12×0.05×1.86≒33万1729円

6  慰謝料 金一五五万

(一) 入通院分 金八五万円

被告の本件入通院期間は、前叙認定のとおりである。

右事実に基づけば、同人の本件入通院分慰謝料は、金八五万円と認めるのが相当である。

(二) 後遺障害分 金七〇万円

被告に障害等級一四級一〇号該当の後遺障害が残存することは、前叙認定のとおりである。

右事実に基づけば、同人の本件後遺障害分慰謝料は、金七〇万円と認めるのが相当である。

7  以上の認定にかかる被告の本件損害の合計額は、金二八一万七七九八円となる。

四  被告の本件損害額の減額

1(一)  成立に争いのない甲第五ないし第一一号証、被告本人(第一回)尋問の結果及び弁論の全趣旨を総合すると、被告は、本件事故前の昭和六〇年一〇月一七日交通事故により頸部、右肩部、腰部の打撲捻挫等の傷害を受け、同月二〇日から昭和六一年二月二八日まで赤松病院へ入院して治療を受け、右病院退院後同年五月二日まで右病院へ通院し、同日症状固定したこと、同人には右症状固定に伴なつて自覚的症状として、頸部、腰部の自発痛並びに動作痛、他覚的症状として、頸部、腰部の他動痛、圧痛等の後遺障害が残存したこと、右後遺障害はその障害等級一四級一〇号に該当すると認定され、被告は右障害等級に相当する自賠責保険金を受給したこと、被告には、本件事故当時もなお、右後遺障害がある程度継続して残存したことが認められ、右認定に反する被告本人(第二回)尋問の結果は、にわかに信用することができない。

なお、証人赤松秀夫は、被告には本件事故当時前回事故による後遺障害は残存していなかつた旨証言するが、同人は、同証言中で、同人の右判断は、ただ被告本人の同旨供述を信用しこれに基づくものであることを供述しているところ、被告の右赤松医師に対する右供述は、被告本人(第二回)の右供述と同じく信用できないから、証人赤松秀夫の前回事故の後遺障害の残存に関する右証言部分も又、にわかに信用することができない。

(二)  右認定各事実に、当裁判所に顕著な、頸椎捻挫による障害等級一四級一〇号該当の後遺障害は最小限一年残存するとの事実を併せ考えれば、被告の本件事故による受傷(特に頸部腰部)には、同人の前回事故による後遺障害の残存も寄与していると認めるのが相当である。

2  本件において、右認定のような事実関係が存在するにもかかわらずその損害額の全部を原告に負担させるのは、損害の公平な分担の原則に反するというべきであるから、右寄与度にしたがい、右損害額を減ずるのが相当である。

しかして、本件における右寄与度は、前叙全認定を総合して、前叙認定全損害額の四〇パーセント相当と認めるのが相当である。

そこで、右認定割合で、被告の右認定全損害額を減額すると、その後の右損害額は、金一六九万〇六七九円となる。(円未満四捨五入。)

五  原告の抗弁(損害の填補)について判断する。

1  抗弁事実中被告が本件事故後自賠責保険金合計金一二〇万円を受領したことは、当事者間に争いがない。

2  しかして、被告の右受領金金一二〇万円は本件損害の填補として同人の本件損害金一六九万〇六七九円から控除されるべきであり、右控除後の右損害額は、金四九万〇六七九円となる。

3  右認定のとおり被告の本件損害額金四九万〇六七九円がなお存在する以上、原告の、右受領金によつて被告の本件損害は全て填補されたとする抗弁は、理由のないことに帰する。

六  弁護士費用 金六万円

本件損害としての弁護士費用は、本件訴訟追行の難易度、その経緯、本件認容額等に鑑み、金六万円と認める。

七  結論

以上の全認定説示から、被告は、原告に対し、本件損害合計金五五万〇六七九円及び弁護士費用金六万円を除いた内金四九万〇六七九円に対する本件事故日であることが当事者間に争いのない昭和六二年二月六日から、弁護士費用である内金六万円に対する本判決言渡日の翌日であることが本件記録から明らかな平成二年一月二七日(この点は、被告自身の主張に基づく。)から、いずれも支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の各支払を求める権利を有するというべきである。

第三全体の結論

以上の次第で、原告の本訴請求は、全て理由がないから、これを棄却し、被告の反訴請求は、右認定の限度で理由があるから、その範囲内でこれを認容し、その余は理由がないから、これを棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条、九五条を、反訴に関する仮執行の宣言につき同法一九六条を、各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 鳥飼英助)

事故目録

一 日時 昭和六二年二月六日午前一時三〇分頃

二 場所 神戸市兵庫区夢野町二丁目一〇番一一号先路上

三 加害車(原告) 原告運転の普通乗用自動車

四 被害車(被告) 被告運転の普通乗用自動車

五 事故の態様 被告車が本件事故現場道路を東方から西方に向け走行中、右車両の直前を走行していた車両が急制動をかけ停車したので、被告車も急制動をかけたところ、右車両に追従走行していた原告車が追突した。

以上

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